河岸段丘の続く伊那谷を行く線路は、まるで釧路湿原を流れる釧路川のように右へ左へと蛇行を繰り返す。
かつて幕末の探検家松浦武四郎は釧路から弟子屈、屈斜路湖へ至る川船の中で、
「今さっき右手に見えた山が今度は左へと」
「前に見えていた葦原は今度は後ろへと」
・・・方向感覚が定まらないと感想を述べている。
伊那、駒ケ根を行き伊那福岡を出た電車はまさに田切地形が続く河岸段丘の上り下りに徹する。
トンネルを掘ったり長大橋梁架橋を避け、最小半径と勾配で進む飯田線。
次のカーブを曲がったらどんな景色が現れるのだろう。
ワクワクの連続が車窓に映し出される。
夕陽がまぶしくても鎧戸を下げずに楽しもう。
そう、中央アルプスが綺麗だ。
1981年11月 飯田線 伊那本郷~七久保。