遮断機のない小さな踏切から遠ざかってゆく列車を眺める。
一瞬の風が行ってしまうと、夏の草いきれとバラストから湧き上がる鉄の匂いをまるで残り香のようにして
鼻孔をくすぐる。
少年の頃の夏休みを愛しいと思える自分がいる。
少し齢を重ねた青年となった自分がいる。
そして今、齢五十を三年過ぎた自分がいる。
麦わら帽子に短パンだったあの頃がなんとも言えず懐かしい。
写真は不思議です。
まるで乗れないタイムマシンのよう。
そして瞼の裏側には特別な装置が付いているみたい。
1981年7月 身延線 甲斐上野~東花輪。