分水嶺を越える峠に佇む今は使われなくなった索道の支柱。
風が通り抜けるだけの荒涼とした其処は、眼を閉じると過去の繁栄とともに歓声が聞こえる。
硫黄採取でマスクを着けた鉱夫たちやその家族が日々の営みに必要な数々の品物が運ばれただろう
その滑車に力強い唸り声は聞こえない。
しかし、耳を澄ませば届けられた品物に一喜一憂する家族団らんの姿はありありと眼に浮かぶ。
「おぅ今日は好い酒が入ったなぁ」
「わーいこのおもちゃ欲しかったんだー」
「ちょうどお醤油がなくなるところだったの助かったわ」
家族の夢を乗せた索道の上にはあの時とおんなじ空が広がっていた。
2015年8月10日 群馬県毛無峠。