風が吹く。
湯檜曽の駅の待合室で寝ていると、通路を伝い風が轟音のようにやってくる。
おちおち寝ていられない。
独りでいると待合室が大きすぎて落ち着かない。
そんなあるとき、一の倉沢から降りてきたクライマーと駅の待合室で一晩を共にしたことがあった。
酒が無くなり、夜な夜な近くの酒屋へ行き、利根錦を買ってきて二人して飲んだ。
「店、もう閉まってますよ」
「大丈夫、いつもこうしているから・・・」
店の戸をドンドン叩き、寝ている店の人を起こして、酒を買う。
豪快な山ヤさんだったな。
去年の12月、湯檜曽駅が改修されている現場をたまたま見た。
もう、風は吹かないのかなぁ。
1979年7月 湯檜曽駅。